◇なぜ多くの企業で「良い研修」が空回りするのか
企業の人事担当者や管理職と話していると、次のような言葉をよく耳にする。
「内容はとても良い研修だった」
「参加者の満足度も高かった」
「しかし、職場は何も変わらなかった」
この現象は決して珍しいことではない。むしろ、企業研修の世界ではごく普通に起きていることである。
なぜこのようなことが起きるのか。
その理由はシンプルだ。
研修は組織を変える仕組みではないからである。
◇研修は「知識」と「気づき」を生む
まず、誤解してはならないのは、研修そのものが無意味だという話ではないということだ。 研修は確かに価値がある。
良い研修は、
- 新しい知識を与える
- 視野を広げる
- 問題への気づきを与える
という意味で重要な役割を持つ。
実際、研修の場では多くの参加者が次のように感じる。
「なるほど、そういう考え方があったのか」
「これは自分の職場でもやるべきだ」
しかし、ここで問題が起きる。
職場に戻ると、ほとんどのことが元に戻る。
◇人は「構造」に従って行動する
多くの企業が見落としている事実がある。
それは、
人は意志ではなく構造に従って行動する
ということである。
たとえば、
- 上司がすべてを決める組織
- 忙しさが常態化している職場
- 評価が短期成果だけで決まる制度
このような環境の中で、研修でどれほど立派な話を聞いても、人の行動はほとんど変わらない。
なぜなら、その人の行動を決めているのは
能力や意識ではなく、組織の構造
だからである。
◇組織問題の9割は構造で起きる
私たちは長年、企業の人材育成や組織支援に関わってきた。
その経験から言えることがある。
それは、
組織問題の多くは、人の能力ではなく構造から生まれる
ということである。
たとえば、
- 管理職が育たない
- 当事者意識が低い
- コンプライアンスが形骸化する
こうした問題は、しばしば「教育の不足」と説明される。
しかし実際には、
- 権限がない
- 評価が矛盾している
- 情報が共有されない
といった組織の構造的問題が原因になっていることが多い。
この状態で研修だけを行っても、組織はほとんど変わらない。
◇研修が有効になる条件
では、研修は意味がないのか。
そうではない。
研修が効果を持つのは、次の条件が満たされたときである。
- 組織の課題が整理されている
- 研修の目的が明確である
- 職場で実践できる環境がある
つまり、
研修は「組織設計」の上に乗るときに初めて機能する。
逆に言えば、研修だけで組織を変えようとすると、必ず無理が生じる。
◇私たちが「研修を勧めない」ことがある理由
私たちアイベックスは研修会社である。
しかし、企業から相談を受けたとき、すぐに研修を提案することはほとんどない。
なぜなら、
今その組織に研修が必要なのか
をまず考える必要があるからだ。
実際には、
- 課題がまだ整理されていない
- 組織構造に問題がある
- 研修の前提条件が整っていない
というケースも少なくない。
その場合、研修を実施しても効果が出ない可能性が高い。
だからこそ私たちは、研修を提案する前に
組織の状況を整理すること
を何より重視している。
◇まず「組織を考える」
企業の教育施策を考えるとき、最初に問うべきことは 「どんな研修をやるか」
ではない。
本来問うべきは、次の問いである。
- その問題は本当に教育の問題なのか
- 組織の構造に原因はないか
- 何を変えれば行動は変わるのか
この問いを整理しないまま研修を行うと、企業は同じ問題を繰り返すことになる。
◇思考実験としての組織診断
そこで私たちは、企業の方に一つの思考実験を提案している。
もし、あなたの組織で
- 管理職が育たない
- 組織風土が停滞している
- コンプライアンスが形骸化している
と感じているなら、その原因は本当に教育の不足なのだろうか。
それとも、別のところにあるのだろうか。
この問いを整理するところから、組織の問題解決は始まる。
(このテーマについて考えてみたい方は、ぜひ当サイトの AI思考実験 を試してみてほしい。)
IBEXの考え方:
研修は、
組織が変わる準備ができている時にだけ効く。
アイベックス・ネットワーク 代表 新井 健一