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コラム

COLUMN

「管理職が機能しない」真の理由は?スーパーマン幻想の脱却と役割のアンバンドリング

はじめに:なぜ今、「管理職が機能しない」という悩みが深刻化しているのか

「うちの管理職は、目の前の実務に追われてマネジメントをしていない」「部下育成が後回しになり、若手が定着しない」「自分たちで意思決定しようとせず、すべて上層部に判断を仰いでくる」——。多くの企業の人事・経営層から、このような「管理職が機能しない」という切実な悩みが寄せられます。

事業環境が急速に変化する現代において、現場の最前線を牽引し、経営層と現場を繋ぐミドルマネジメントの役割はかつてないほど重要になっています。それにもかかわらず、なぜ多くの職場で管理職が期待通りの働きを見せていないのでしょうか。

繰り返される「とりあえず研修」の失敗

管理職が機能しないという課題に直面したとき、多くの企業が真っ先に検討するのが「管理職研修の実施」です。タイムマネジメント、コーチング、リーダーシップ、あるいは戦略的思考といったテーマで研修を行い、個人のスキルや意識を高めることで問題を解決しようと試みます。

研修の場において、受講者である管理職たちは熱心に耳を傾け、「部下との1on1を増やそう」「中長期的な視点を持とう」と決意を新たにします。しかし、翌日職場に戻るとどうなるでしょうか。未読メールが山のように溜まり、顧客からのクレーム対応に追われ、月末の売上目標達成への強烈なプレッシャーが重くのしかかります。結果として、研修で学んだ「あるべきマネジメント行動」は後回しにされ、慣れ親しんだプレイング業務に没頭する日常へと引き戻されてしまうのです。

この現実を目の当たりにした人事担当者は、「何度研修をやっても現場の行動が変わらない」と頭を抱えることになります。そして、「今の管理職は当事者意識が足りない」「能力が不足している」という結論に陥りがちです。

「人」ではなく「構造」に目を向ける

しかし、ここで立ち止まって考える必要があります。「管理職が機能しない」という現象は、本当に彼ら個人の能力や意識の問題なのでしょうか。

私たちがこれまで多くの企業の組織課題に向き合ってきた結論から言えば、問題の真因は「人」ではなく「構造」にあります。組織の仕組み、役割定義、評価制度といった構造そのものが、管理職に対して「マネジメントよりもプレイングを優先せよ」「自分で判断するな」と強制しているケースが圧倒的に多いのです。

本記事では、ミドルマネジメントが機能不全に陥るメカニズムを構造的に解き明かし、安易に研修に頼る前に人事・経営層が取り組むべき本質的な解決策について解説します。

「管理職が機能しない」のは能力不足ではない。プレイヤー化と判断停止を生む組織の罠

管理職が期待される役割を果たせない背後には、必ず組織的な理由が存在します。ここでは、代表的な二つの構造的欠陥について深掘りします。

スーパーマン化を強いる「無自覚な業務の足し算」と管理職のプレイヤー化の原因

管理職 プレイヤー化 原因を探っていくと、「業務の足し算」という現象に突き当たります。過去数十年にわたり、日本企業の管理職に求められる役割は増え続けてきました。

かつては自部門の「業績達成」が最大のミッションでしたが、現在ではそれに加えて、コンプライアンスの徹底、ハラスメントの防止、働き方改革に伴う残業時間の厳格な管理、部下のキャリア自律を支援する1on1の実施、さらにはデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や新規事業の創出まで求められます。

組織は環境変化に対応するため、次々と新しいミッションを管理職に課します。しかし、ここで致命的な問題が生じます。「新しい業務を追加する一方で、既存の業務(特にプレイング業務)を減らしていない」ということです。結果として、管理職はすべてを完璧にこなす「スーパーマン」であることを要求されます。

現実の人間はスーパーマンではありません。膨れ上がった役割に対して時間とリソースが圧倒的に不足したとき、管理職はどうするでしょうか。彼らは無意識のうちに、最も緊急性が高く、目に見えやすい成果が出る「プレイング(目の前の業績)」に逃げ込みます。中長期的な部下育成や業務プロセスの改善は緊急ではないため、どんどん後回しにされます。これが、個人のタイムマネジメント能力の問題ではなく、構造が生み出すプレイヤー化の正体です。

「管理職が判断できない組織」を生み出す、権限と責任のねじれ

もう一つ深刻なのが、「管理職 判断できない 組織」という問題です。現場の一次情報を持っているはずの課長や部長が、自ら意思決定できず、些細なことまで上層部にお伺いを立てる状態です。

この原因は、「権限と情報の非対称性」、そして「失敗を許容しない減点主義の空気」にあります。管理職には「目標達成」という重い責任が課せられている一方で、それを達成するために必要な予算配分や人事権といった「権限」が適切に委譲されていないことが少なくありません。権限がないのに責任だけを負わされれば、誰であっても自己防衛のために判断を上長に委ねるようになります。

さらに、昨今ではコンプライアンスという言葉が独り歩きし、「絶対にミスをしてはいけない」「前例のないことは避けるべきだ」というリスク回避至上主義が蔓延しています。本来のコンプライアンスとは、ビジネスを前進させるためにルールを正しく理解し、適切なリスクテイクを行うための基盤です。しかし、これが「ルールの形骸化」や「保身」にすり替わっている組織では、管理職の判断力は急速に萎縮し、ミドルマネジメント 形骸化が加速します。

ミドルマネジメントの形骸化を防ぐ「役割のアンバンドリング(分解)」の思考法

「管理職が機能しない」状態から脱却するためには、前述の「スーパーマン化」を解体する必要があります。そのための有効なアプローチが、役割の「アンバンドリング(分解)」です。

管理職の役割が不明確なままの「丸投げ」からの脱却

多くの企業では、昇進した社員に対して「今日から課長として、部署のマネジメントを頼む」という漠然とした辞令が出されます。この「管理職 役割 不明確」な状態こそが、機能不全の第一歩です。「マネジメント」という言葉には人によって異なる解釈があり、ある人は「売上を牽引すること」と考え、ある人は「部下の面倒を見ること」と考えます。

まずは、管理職に期待する機能を具体的に分解(アンバンドリング)してみましょう。例えば、以下のような機能に分けられます。

  • 業績牽引機能:自らプレイングの先頭に立ち、短期的な数字をつくる
  • 業務改善機能:業務プロセスを見直し、生産性を向上させる
  • 人材育成機能:部下の能力開発とモチベーション管理を行う
  • 結節点機能:経営戦略を現場に翻訳し、現場の情報を経営に提言する

すべての機能を一人の人間に完璧に求めてはいけません。自社の現在の事業フェーズ、あるいはその部門の状況に照らし合わせて、「今のこのポジションの管理職には、どの機能に最も注力してほしいのか」を経営・人事として明確に優先順位付けする必要があります。

課長・部長の機能不全を解消する「何をやめるか」の言語化

優先順位が決まったら、次に不可欠なのが「期待役割の徹底的な言語化」です。ここで重要なのは、「何をすべきか」を伝えることだけではありません。それ以上に重要なのは、「何をやめるべきか(しなくてよいか)」を明示することです。

「部下の育成に週の30%の時間を割いてほしい。その代わり、あなた自身の個人売上目標は従来の半分に減らす」あるいは「新規事業の種を見つけることに注力してほしい。そのため、定型的な実務の承認プロセスはサブリーダーに権限委譲する」といった具合です。

課長 部長 機能不全を解消するためには、「あれもこれも頑張れ」という精神論を捨て、経営側が「やらないこと」を決断し、それを明言する責任を負わなければなりません。これができて初めて、管理職は迷いなく本来期待されたマネジメント行動にエネルギーを注ぐことができるようになります。

研修の前に人事が着手すべき、組織設計と「メッセージ」の修正

役割を言語化しただけでは、まだ現場の行動は変わりません。次に立ちはだかるのは「人事制度」という強力な壁です。

人事制度は「評価の仕組み」ではなく「組織からのメッセージ」

私たちは、人事制度を単なる「給与を決めるための評価の仕組み」とは捉えていません。人事制度とは、経営から従業員に対する「我が社はこのような行動や結果を重視している」という強烈な「組織からのメッセージ」です。

管理職が機能しないと悩む企業の多くで、このメッセージに矛盾が生じています。社長や人事が口頭で「これからは人材育成が重要だ。管理職はプレイングを減らし、部下の支援に回るように」と伝えても、期末の評価シートの大部分が「部門の短期的な売上達成率」や「管理職自身の個人業績」で占められていたらどうなるでしょうか。

管理職は、言葉よりも評価基準(メッセージ)を信じます。評価されない育成業務よりも、自身の評価やボーナスに直結するプレイング業務を優先するのは、合理的な適応に過ぎません。

したがって、研修を実施する前に、まずは評価制度を見直し、期待する役割と言語化されたメッセージを合致させる「組織設計」に着手する必要があります。育成や組織改善のプロセスを適切に評価に組み込むことで、初めて管理職は安心してマネジメントに注力できる環境が整います。

サイロ化を解消し、現場と経営の結節点としての機能を回復させる

もう一つの構造的課題は、部門間の壁(サイロ化)です。管理職が自部門の利益や目標達成のみに終始する「部分最適」に陥っていると、全社的な経営戦略は現場に浸透しません。

これを打破するためには、情報共有の仕組みや会議体の設計を見直す必要があります。他部門の状況や経営レベルの一次情報が、ミドルマネジメント層に透明性を持って共有される構造を作ること。そして、部門横断的な課題解決に取り組むことを評価する仕組みを取り入れることで、管理職は「自部門の長」から「経営チームの一員」へと意識をシフトさせていくことができます。

管理職が真に機能するための「VUCA対応3要素」と実践的育成アプローチ

ここまで解説してきた「役割のアンバンドリング」「期待役割の言語化」「評価制度の修正」といった組織設計のアプローチを終えて、ようやく「能力開発(研修)」が効果を発揮する土壌が整います。

では、現代の複雑で予測困難なビジネス環境(VUCA時代)において、管理職にはどのような視座をインストールすべきでしょうか。私たちは、次世代リーダーに必須の能力として以下の「3つの視座」を提唱しています。

情報収集力と会計・ファイナンス力:部分最適から全体最適へ

一つ目は「情報収集力」です。自部門の狭い視野にとどまらず、外部環境の変化、競合の動向、他部門の取り組みなど、広い視野で一次情報を集める力です。経営の意思決定に貢献するためには、現場のリアルな情報を経営層に翻訳して届ける能力が不可欠です。

二つ目は「会計・ファイナンス力」です。これは単に簿記の知識を持つということではありません。経営資源(ヒト・モノ・カネ・時間)がいかに配分され、どのように利益を生み出しているのかという「ビジネスの構造」を数字で理解する力です。この視座を持つことで、管理職は自部門の予算消化ではなく、全社的な投資対効果(ROI)に基づいた全体最適の判断ができるようになります。

コンプライアンス意識:リスク回避の空気から、適切なリスクテイクへ

三つ目は「コンプライアンス意識」です。前述の通り、コンプライアンスを「失敗しないための防具」として捉えているうちは、組織は萎縮し続けます。真のコンプライアンスとは、法令や社会規範の趣旨を深く理解した上で、「どこまでならリスクを取って挑戦できるか」を見極めるための「攻めの判断軸」です。この意識を管理職が持つことで、「管理職が判断できない組織」から脱却することができます。

座学で終わらせない「学習と実践の往復(アクションラーニング)」

これらの高度な視座は、講師の話を聞くだけの座学研修では身につきません。効果的なのは、自社の実際の経営課題や現場のトラブルを題材にした「アクションラーニング」の導入です。

例えば、自部門の業務プロセス改善という実課題に対し、財務的インパクトを試算し、関連部署と調整を行いながら解決策を実行する。その過程で直面した壁や失敗を、研修の場でファシリテーターや他部門の管理職と共に振り返り、理論と結びつけていく。このような「学習と実践の往復」を繰り返すことで、管理職の意識は徐々に、しかし確実に「プレイング志向」から「経営志向」へと変容していきます。

まとめ:「管理職が機能しない」課題を、組織進化のステップボードに

「管理職が機能しない」という事象は、決して彼ら個人の能力不足やモチベーションの低下だけで片付けられる問題ではありません。それは、過去の成功体験に基づく組織構造が限界を迎え、現代の環境に適応できていないことを示す「経営へのサイン」です。

  • 管理職のプレイヤー化を引き起こす「無自覚な業務の足し算」に気づくこと。
  • スーパーマンを求めることをやめ、役割をアンバンドリング(分解)し、期待役割を言語化すること。
  • 矛盾した評価制度という「組織からのメッセージ」を修正すること。
  • その上で、経営視座を養う実践的な育成の仕組みを導入すること。

安易に「とりあえず研修をやろう」という発想を捨て、経営と人事が一体となって組織設計から見直すことこそが、ミドルマネジメントを再生し、現場の確実な行動変容を生み出す唯一の道です。

この課題に向き合うことは、組織全体を次のステージへと進化させる絶好の機会(ステップボード)となります。機能する管理職の育成は、組織構造のアップデートから始まるのです。

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