人材育成・コンサルティングのアイベックス・ネットワーク

人材育成・コンサルティングの株式会社アイベックス・ネットワーク

コラム

COLUMN

「管理職が機能しない」のはなぜか?プレイヤー化を強制する組織の構造的ズレと、再生のためのシナリオライティング

はじめに:なぜ「管理職が機能しない」という悩みが繰り返されるのか

多くの企業で人事担当者や経営層の方々とお話しする際、必ずと言っていいほど直面する悩みがあります。それは「管理職が機能しない」という切実な課題です。「プレイングマネージャーとして現場の業務ばかりに追われ、本来のマネジメントがおろそかになっている」「上位方針を翻訳して部下に伝える役割を果たしていない」など、その症状は多岐にわたります。

こうした状況を打破するため、中堅・大企業の多くが多額の予算を投じて管理職研修を実施しています。しかし、「研修直後は意識が高まったように見えたが、数ヶ月経つとすっかり元の状態に戻ってしまった」「現場での行動変容に全く繋がらない」という結果に終わり、頭を抱えるケースが後を絶ちません。事業部長や役員クラスの方々からも、「なぜうちのミドルマネジメントは育たないのか」という焦りの声が頻繁に聞かれます。

なぜ、このような事態が繰り返されるのでしょうか。本記事では、「管理職が機能しない」という現象の本質的な原因に迫ります。ミドルマネジメントの形骸化やプレイヤー化に悩む皆様に向けて、研修という「点」の施策に頼るのではなく、組織構造という「面」からアプローチするための具体的な考え方と、現場の打ち手に落とせる実践のヒントを提示します。

管理職の「プレイヤー化」の原因は個人の能力不足ではない

管理職が期待通りの働きを見せないとき、私たちはつい「個人の能力不足」や「当事者意識の低さ」に原因を求めてしまいがちです。「もっと経営視点を持ってほしい」「リーダーとしての自覚が足りない」と嘆き、意識改革を目的とした研修を企画します。しかし、管理職のプレイヤー化の原因を個人の資質に帰結させている限り、根本的な問題解決には至りません。

意識改革の限界に気づく

たしかに、新たに現場のエースから管理職に昇格した人材には、プレイヤーからマネージャーへのマインドチェンジが必要です。しかし、彼らも初めから「マネジメントを放棄しよう」と考えているわけではありません。日々の業務に追われ、現場のトラブル対応に奔走する中で、結果的にプレイヤー化「させられている」のが実態です。

個人に原因を求めるアプローチは、「人」を責めることになりがちです。これにより、組織内の心理的安全性が低下し、「割に合わない」と感じた優秀な管理職の離職を引き起こすリスクすらあります。どれほど優秀な人材であっても、置かれた環境や制度がそれを許さなければ、本来の能力を発揮することはできません。

構造が個人の行動を規定する

株式会社アイベックス・ネットワーク(IBEX)では、「組織問題は『人』ではなく『構造』から生まれる」という視座を大切にしています。管理職がプレイヤー化してしまうのも、彼らの意識が低いからではなく、そうせざるを得ない「組織構造」が存在しているからです。

たとえば、部門の業績目標が極めて高く設定されており、管理職自身が実務をこなさなければ到底達成不可能な人員配置になっていないでしょうか。あるいは、プレイングによる個人の成果を高く評価する仕組みが残ったままになっていないでしょうか。人間は、自分を評価する仕組みや周囲からの要請に従って行動を最適化する生き物です。つまり、管理職が機能しない状態は、現在の組織構造が極めて忠実に作動した結果、生み出されている必然の姿と言えるのです。

「管理職が判断できない組織」を生み出す3つの構造的ズレ

管理職が機能不全に陥る背景には、組織が抱える構造的な欠陥が存在します。ここでは、特にミドルマネジメントの形骸化を引き起こす3つの「ズレ」について解説します。

1. 管理職の役割が不明確なままの権限委譲

一つ目は、「管理職の役割が不明確」なまま、名前だけの権限委譲が行われているケースです。「課長になったのだから、部門のマネジメントは任せた」という言葉は、一見すると信頼の証のように聞こえます。しかし、具体的に「何をどこまで決定してよいのか」「どのような状態を実現することが求められているのか」という期待役割が言語化されていなければ、それは単なる「丸投げ」に過ぎません。

役割が曖昧な状態では、管理職は過去の成功体験、すなわち「優れたプレイヤーとしての行動」にすがるしかなくなります。結果として、部下の育成や組織課題の解決といった本来のマネジメント業務は後回しにされ、目の前の実務に没頭するプレイヤー化が進行します。

2. 人事評価という「組織からのメッセージ」の矛盾

二つ目は、人事制度における評価基準の矛盾です。人事制度は、単なる給与を決めるための仕組みではありません。それは「会社があなたに何を期待しているか」を伝える、最も強力な「組織からのメッセージ」です。

経営層が「中長期的な人材育成に注力してほしい」と口では言いながらも、実際の評価では「短期的な部門の売上高」や「管理職自身の個人営業成績」に重きが置かれている場合、管理職はどちらを優先するでしょうか。言うまでもなく、自らの評価に直結する短期的な成果や実務です。言葉によるメッセージと人事制度という構造からのメッセージが矛盾している環境下では、課長・部長の機能不全が起きるのは当然の帰結です。

3. 情報の非対称性によるミドルマネジメントの形骸化

三つ目は、「管理職が判断できない組織」を生む情報の非対称性と、過度なリスク回避の空気です。

経営方針や意思決定の背景となる重要な情報がミドルマネジメントに適切に共有されていない場合、管理職は自信を持って現場に方針を翻訳して伝えることができません。情報を持たない管理職は、現場からの突き上げと経営層からの圧力の板挟みになり、判断を保留するか、無難な対応に終始するようになります。

また、承認プロセスが過度に煩雑であったり、失敗を許容しない空気が蔓延している組織では、本来であれば管理職が自らの権限で裁量を発揮すべき場面でも、「上が決めたことだから」と責任を回避するようになります。これがミドルマネジメントの形骸化を決定づける要因です。

課長・部長の機能不全を断ち切る「シナリオライティング」の重要性

これらの構造的なズレを解消し、管理職を再び機能させるためには、単発の研修を実施するだけでは不十分です。求められるのは、経営トップの意思から現場の実務に至るまでの一貫した「シナリオライティング」です。

トップの意思と現場のギャップを埋めるシナリオ

シナリオライティングとは、経営層が思い描く「あるべき組織の姿」を実現するために、誰が、いつ、どのように動き、どのような制度や仕組みでそれを支えるのかを描き出すプロセスです。

管理職が機能しないと悩む企業の多くは、このシナリオが欠落しています。「経営方針を立てた」「新しい人事制度を導入した」「とりあえず管理職研修を実施した」という個別の施策は存在しても、それらが一本の線として繋がっていないのです。

IBEXのコンサルティングアプローチでは、まず経営トップや人事と協働し、「我が社の管理職には、具体的にどのような行動を期待するのか」を徹底的に言語化することから始めます。そして、その期待役割を果たすために、現在の業務プロセスの中にどのような障害があるのか、どのような権限を付与すべきなのかを構造的に整理します。これが、トップの意思を実現するためのシナリオの第一歩です。

研修ありきの発想から抜け出す

IBEXがお客様からご相談を受けた際、最も重視しているのは「研修ありきではなく、必要であれば研修を提案しない」という姿勢です。

現状の組織構造や人事制度に大きな矛盾を抱えたまま、管理職に対して「マネジメントの重要性」を説く研修を実施しても、現場のシラケを生むだけです。「良い話だったが、うちの会社では無理だ」という諦めを助長してしまいます。

まずは、プレイング業務の徹底的な棚卸しを行い、管理職がマネジメントに割ける時間を物理的に確保する。そして、評価基準を見直し、マネジメント行動が正当に評価される仕組みを整える。こうした組織設計のアップデート(構造の改革)と並行して、はじめて研修や育成施策が意味を持ちます。組織からのメッセージを一貫させることが、管理職の当事者意識を呼び覚ます最大の鍵なのです。

機能する管理職を育むための組織設計と育成の統合アプローチ

組織構造の欠陥を取り除き、期待役割を言語化した上で、どのような育成アプローチをとるべきでしょうか。ここでは、実課題の解決と連動した統合的な育成の仕組みについて解説します。

実課題と連動した育成の仕組み

機能する管理職を育成するためには、教室の中で知識を学ぶだけの研修から脱却する必要があります。IBEXが推奨するのは、学習と実践を往復するハイブリッドなアプローチです。

たとえば、自部門が抱えるリアルな課題(業務プロセスの改善、生産管理の革新など)をテーマに設定し、その解決に向けたプロジェクトを推進しながらマネジメントスキルを習得していくアクションラーニング(AL)の手法が有効です。ワークショップセミナー(WSS)を通じて、研修という「非日常」の場と、実務という「日常」の場をシームレスに繋ぎます。学んだフレームワークを即座に現場で試し、その結果を持ち帰って振り返る。このサイクルを回すことで、管理職は「知っている」状態から「できる」状態へと移行していきます。

経営視座を鍛える「VUCA対応3要素」

現代のVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代において、管理職に求められる役割はますます高度化しています。単に部門内の業務を管理するだけでなく、経営全体を俯瞰する視座が不可欠です。次世代のミドルマネジメントが身につけるべき重要な要素として、IBEXでは以下の3つを提唱しています。

  1. 情報収集力
    現場の一次情報を正確に捉え、それを経営課題と結びつけて上位層に進言する力です。管理職が単なる上意下達の伝書鳩ではなく、経営と現場を繋ぐ「翻訳家」として機能するために必須のスキルです。

  2. 会計・ファイナンス力
    自部門の活動が、全社の財務数値にどのような影響を与えるのかを理解する力です。部分最適に陥ることなく、全体最適の視点からリソース配分や投資の意思決定を行うための基礎となります。

  3. コンプライアンス意識
    ルールを盲目的に守る「守りのコンプライアンス」ではなく、ルールの背景にある理念を理解し、リスクを適切にコントロールしながら事業を前進させる「攻めのコンプライアンス」の視点です。これにより、管理職が判断できない組織特有の「萎縮」を防ぎます。

これらの視座は、MBAコースのような体系的な理論学習と、前述のアクションラーニングを組み合わせることで効果的にインストールできます。組織としての明確な支援体制と、長期的な視野に立った育成の仕組みが求められます。

まとめ:研修ありきの発想を捨て、機能する組織構造へ

「管理職が機能しない」という課題は、決して個人の能力不足や意識の低さだけで片付けられるものではありません。その背後には、役割の不明確さ、評価制度の矛盾、権限と情報の非対称性といった、組織構造の深刻なエラーが潜んでいます。

この構造的な問題を放置したまま、対症療法的な管理職研修を繰り返しても、現場の行動は変わりません。人事・経営層に求められているのは、自社の管理職に対する「期待役割」を徹底的に言語化し、トップの意思を現場に届けるための「シナリオライティング」を行うことです。そして、人事制度や業務プロセスという「組織からのメッセージ」を整合させる必要があります。

組織設計の見直しと、経営視座を育む統合的な育成アプローチ。この両輪が回って初めて、ミドルマネジメントは本来の輝きを取り戻し、組織全体の成長を牽引する原動力となります。

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