的外れな研修企画
◇もう一つの空回り原因
前回は、研修の意義が正しく理解されていないことで、コンプライアンス研修が空回りしてしまうということを解説したが、今回は的外れな研修企画による空回りについて解説する。
的外れな研修企画とは、主催者の意図と整合しない研修企画であり、研修によって解決すべき問題と研修内容がずれているということである。
例えば知識不足による法令違反の頻発が解決すべき問題であれば、知識学習を意図した研修を開催すべきであり、精神論を説くのはそのあとでよいということである。
以下、筆者が経験した最近の事例を2社ご紹介する。
研修企画の見直し例①
1社目は、親会社による小規模子会社向けコンプライアンス研修の企画である。
これまでコンプライアンス教育が欠落していた子会社の管理職がゼロからコンプライアンス経営を学べる研修というのが親会社のご要望で、筆者が執筆した管理職向けの小冊子をヒントに、この内容を研修で伝えてほしいというものであった。
しかし詳しくお話を伺うにつれ、筆者はこれでは効果の実現は難しいと感じ始めた。
そこで提案したのは、まずはコンプライアンス経営を自分事としてとらえてもらうために、丁寧に自職場を振り返り、「うちにもコンプライアンスリスクが存在する」ことに気づかせるという研修であった。
コンプライアンスに真剣に取り組まなければ、自職場が原因で会社を揺るがすような事件が起きかねないのだという認識を持つことで、研修受講の必要性を理解させることから始めるべきだと考えたのである。
研修企画の見直し例②
2社目は中堅企業の事例である。
同社では、定年後に嘱託として残った社員による若手社員へのパワハラ発生が問題となっていた。
そこでコンプライアンス部門としては、年齢差によるコミュニケーションギャップが問題原因だと考え、コミュニケーションスキル強化を意図した研修を実施したいというご要望であった。
ここでも詳しい事情をお聞きするにつれ、コミュニケーションスキルは問題原因には違いないが、それが問題の本質でないのではないかと感じてきた。
嘱託社員とは、給与は下がる、役職ははく奪される、かつての部下が上司となる。かといって仕事内容は変わらないという感情的に納得のいかない境遇に置かれており、傷つけられたプライドやストレスが原因で厳しい口調で若手に接してしまっているという可能性が濃厚であった。
そこで筆者が提案したのは、単なるコミュニケーションスキルの強化ではなく、彼らにプライドを取り戻させること、自らの幸福なリタイヤに向け、残された時間で会社にどのように貢献すべきかを考えてもらうという研修であった。
貢献として若手へのノウハウ伝承なども重要な要素であるが、人事評価を過度に気にする必要のない嘱託社員だからこそできる接し方があるはずだという点に自ら気づき、自分で納得できるコミュニケーションの方法を選択できるようにすることを狙いとしたものである。
一般的なキャリア研修をさらに実務よりに落とすことで、明日からの振る舞い方を考えるという点を重視した。
自ら納得のいく解決策を見出すことで、やらされ感ではない自発的な行動改善に結びつけるという研修である。
問題防止に向けた策
このようにチグハグな研修企画を防ぐためには、現状の問題状況を正しく理解し、その原因を突き止め、原因を解消できる研修を企画する必要がある。
しかし、コンプライアンス研修を主催するのはコンプライアンス部門であり、研修企画自体に慣れていないことも多いだろう。
ともすると目の前の問題に直接手を打つようなストレートな企画に陥り易いため、人事部門や外部専門家に助言を求めることも大切である。
以上
アイベックス・ネットワーク パートナーコンサルタント 角渕渉