経済産業省 人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~
研修ニーズの定義
1.作業の概要
(1)作業目的
研修効果の測定を行なうにあたっては、直接個々の研修に着目して、効果測定の方法を検討しても、満足のいく測定方法を見出すことは困難です。
研修を実施することにより、最終的に実現したい状態を明確にし、そこから逆算していくという順序で、「研修が最終目的を実現するために貢献できることは何か」という点について検討することが効果的です。
一般に、組織が最終的に実現したい状態を定義したものを戦略目標と呼びますが、研修効果測定ではこの戦略目標を確認するところからはじめます。
戦略目標を達成するために人材戦略が存在し、人材戦略を達成するために研修戦略が存在します。
研修戦略の実現手段として個々の講座をとらえ、それぞれの講座で達成すべき目標を、研修戦略と整合した形で定義できれば、個々の講座に関する研修効果の測定は、その達成度を測ればよいということになります。
ここでは、上に示したプロセスにしたがって検討を進める際の留意点等についてまとめます。
(2)成果目標
ここでは、以下の3点を成果目標とします。
①研修効果測定の最終ゴールである組織の戦略目標を確認する。
②研修で達成すべき課題を定義する。
③課題を達成するための研修体系を定義する。
(3)検討手順
以下の手順に従って検討を行ないます。
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検討項目 |
検討内容 |
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1 |
戦略目標の確認 | 自社の戦略目標を確認し、人材育成に期待される機能別戦略を抽出します。 |
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2 |
人材戦略の展開 | 抽出された人材戦略から、各人材育成手段を活用して実現すべき戦略目標を確認します。 |
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3 |
研修戦略の展開 | 研修戦略のもととなる研修ニーズを調査し、具体的な学習目標に展開します。 |
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4 |
研修ニーズの定義 | 研修ニーズをもとに、研修企画を立案できるレベルの情報を整理する。 |
2.戦略目標の確認と人材戦略の定義
(1)基本情報
戦略目標の確認を行なう際に活用できる情報には、以下のようなものがあります。
① 社是・社訓
自社の基本的な価値観や経営理念を表現した社是・社訓等には、直接的な表現として自社が求める人材について触れているものもありますが、もし直接的に記述されていなくても、経営理念等から求める人材像を想定することができます。
② 中長期経営計画
中長期経営計画には、商品や市場を中心とした事業戦略に関わる情報が大部分を占めますが、それらの事業戦略を支える人材について、必要とされる人員構成と能力面での人材ニーズがかかれているものがあります。
③ 部門別事業計画
各部門の事業計画は、全社の中長期経営計画の詳細情報として活用できます。ただし、全ての計画に人材戦略まで含んでいるとは限りません。
④ トップ講演、社内報等の情報
経営戦略を抽出するための情報として最適とはいえませんが、最新のトップからのメッセージという意味で、利用価値のある情報です。
⑤ その他
各種のプロジェクト計画やIR情報などの入手可能な資料から、戦略目標に関する情報を抽出することができます。
(2)人材戦略の定義
以上のような情報から、事業戦略に関する情報を入手することができますが、明確に人材戦略という項目で情報が明記されているとは限りません。
また、明記されていたとしても、情報量として十分ではない可能性があります。
その場合には、以下の2つの選択肢から適切な方を選びます。
【仮説による定義】
入手できた情報をもとに、仮説ベースで戦略目標を想定し、人材戦略を設定する。
【人材戦略を演繹的に定義】
入手できた情報をもとに、独自の判断で人材戦略を立案する。
(3)人材戦略の確認事項
人材戦略として確認すべき主な事項は以下のようなものです。
① 人材の概略イメージ(戦略と人材の関連において)
② 人材に求められるスキル/コンピテンシー
③ 各スキル/コンピテンシーを求める人材の範囲(職種、人数、時期等)
④ 人材確保に関する考え方(育成、中途採用、アウトソーシング等)
⑤ 人材育成に投じる予算枠(または予算確保の考え方)
⑥ その他
3.人材戦略の展開
確認された人材戦略を展開して、人材育成手段との関連付けを行ないます。
このプロセスは、以下の2ステップに分かれます。
(1)人材育成課題の設定
人材戦略を展開して、人材育成業務を通じて達成すべき課題を体系化します。
①第1レベルの展開
第1レベルは、人材育成のテーマ領域になります。
例えば以下のようなものが考えられます。(第1レベルが複数段階になる可能性もあります。以下同様)
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- 提供商品の付加価値向上を支える人材育成
(この場合の最終的な研修業務としては、営業担当者の提案力向上に関する研修や、開発担当者のマーケティングセンスの向上につながる研修などが考えられます。) - コンプライアンス経営を実践できる人材育成
(この場合の最終的な研修業務としては、階層別研修への倫理法令遵守の徹底を促す内容の追加、部門のコンプライアンス担当者のスキルアップ教育などが考えられます。) - ローコストオペレーションを実現できる人材育成
(この場合の最終的な研修業務としては、工場の現場担当者の原価意識向上研修、経理担当者の現場の問題発見研修等が考えられます。)
- 提供商品の付加価値向上を支える人材育成
②第2レベルの展開
第2レベルは、各人材育成テーマについて、業務で生じることが期待される変化(「財務」「組織」「行動」「能力」の各視点から)を想定します。
例えば、上の「提供商品の付加価値向上を支える人材育成」であれば以下のような事項が考えられます。
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- 売上高総利益率の向上
- 顧客満足度調査における満足度向上
- 提案書の内容改善
③第3レベルの展開
第3レベルは、業務で変化を生じさせるために身につけなければならない能力(広義の能力で教育テーマ)になります。
研修プログラムの項目に近いものも考えられますが、それよりも抽象度の高いものを定義することが、人材育成手段の幅を広げる点で有効です。
例えば、上の「提案書の内容改善」であれば以下のような事項が考えられます。
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- 問題解決力(知識・技能として)
- ドキュメンテーション力(知識・技能として)
- 顧客理解力(顧客をとことん理解しようとする姿勢、コンピテンシーとして)
- ノウハウを共有する風土(職場の意識として)
(2)人材育成手段の想定
展開した各課題について、育成手段の想定を行ないます。
主な育成手段は以下のようなものですが、この段階では詳細化しすぎない方が、選択肢を狭めないため好ましいといえます。
① 研修型の育成手段
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- 集合研修
- ワークショップセミナー
- アクションラーニング
- 国内外の大学院等への留学
② OJT型の育成手段
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- 通常のOJT
- 他社(他部門)への派遣OJT
③ 自己啓発型の育成手段
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- 従来型の通信教育
- Eラーニング
- 文献研究(レポート、論文提出)
- 資格取得(国家試験等の受験)
(3)取りまとめ方法
①人材育成課題の取りまとめ
課題を体系図として整理していくため、ツリー型(ロジックツリー)の様式で取りまとめます。
各階層の意味をそろえることと、重複/抜け落ちのない展開を行なうことが重要です。(MECE)
②人材育成手段の取りまとめ
課題体系図の最下層を対象として整理していきます。
定義された各能力について、上の①~③(特に手段が限定される場合にはより詳細に定義)の中から、適切な手段を選択します。
4.研修戦略の展開
人材戦略の展開プロセスで、最終的に研修を手段として採用すべき能力開発について、どのような研修体系で取り組むかを定義します。
このプロセスは、以下の2ステップに分かれます。
(1)研修テーマの設定
組織的にある一定の能力(広義の能力)を強化するために、取り組んでいくべき研修テーマを設定します。
例えば以下のようなものを意味します。
- 提案力強化研修
- コンプライアンス経営浸透研修
- 原価意識向上研修
なお、この段階では研修のテーマ領域の内、研修計画の中で採用するものを選定・整理することにとどめます。
受講者(職種、部門、階層等)の想定は、この後の段階で行ないます。
(2)研修テーマの講座分割
研修テーマとして選定された領域について、受講者と教育内容を検討し、講座としての単位を設定します。
5.研修ニーズの定義
通常の研修企画業務におけるプログラム検討に相当します。
この段階では以下の情報とともに、研修で達成すべき目標(実現したい状況)を定義します。
① 研修タイトル
② 研修概要(研修の全体像をイメージできるレベル)
③ 研修目的
④ 学習目標
⑤ 想定受講者と前提条件
⑥ 研修の流れ(時間割、項目等)
特に、学習目標については、習得すべき知識・技能だけでなく、この研修の結果として、組織に生じる変化(「財務」「組織」「行動」「能力」)について、定義をしておきます。
(関連コラム)
以上