◇制度は評価の仕組みではなく、組織のメッセージである
企業の人事制度の話になると、多くの場合、議論は次のようなテーマに集中する。
- 評価項目は何にするか
- 等級制度をどうするか
- 賃金体系をどう設計するか
つまり、人事制度は「評価の仕組み」あるいは「給与制度」として理解されることが多い。
もちろんそれも重要な側面ではある。
しかし、人事制度の本質はそこではない。
人事制度とは、実は
会社の思想を最もはっきり示す仕組み
である。
◇人は評価される行動を選ぶ
組織を考えるうえで、非常に重要な原則がある。
それは
人は評価される行動を選ぶ
ということである。
例えば、会社が次のようなメッセージを出しているとする。
「挑戦する人材になってほしい」
「新しいことにチャレンジしてほしい」
しかし実際の評価制度はどうだろうか。
もし評価が
- 短期成果
- 売上
- ミスの少なさ
で決まるとしたら、社員はどのように行動するだろうか。
答えは明らかである。
挑戦しない。
なぜなら、挑戦することは合理的な選択ではないからである。
このとき社員が「保守的」なのではない。
社員は、組織のルールに従って合理的に行動しているだけである。
◇制度は「組織の本音」を表す
企業の経営理念やビジョンは、どの会社にもある。
しかし、それらの言葉よりも強いメッセージを持つものがある。
それが
人事制度
である。
なぜなら、人事制度は
- 昇進
- 評価
- 報酬
に直接関わるからだ。
つまり社員にとっては
何を言われるかより、何が評価されるかの方が重要
なのである。
だからこそ、人事制度には会社の本音が表れる。
会社が本当に何を重視しているのかは、制度を見ればわかる。
◇組織問題の多くは制度から生まれる
多くの企業で見られる組織問題の背景には、制度の矛盾がある。
例えば
- 部門協力を求めながら、評価は部門成果だけ
- 管理職に育成を求めながら、評価は個人成績
- 挑戦を求めながら、失敗すると評価が下がる
このような制度のもとでは、社員はどのように行動するだろうか。
当然、制度に合わせて行動する。
その結果
- 部門間の壁
- 管理職のプレイヤー化
- 挑戦しない組織
が生まれる。
つまり多くの組織問題は
制度が作っている
と言ってもよい。
◇制度は組織の構造の一部である
私たちは組織を次の順序で理解している。
思想
↓
構造
↓
行動
↓
成果
ここでいう構造とは
- 役割
- 権限
- 情報
- 評価
といった、組織を動かす仕組みのことである。
人事制度は、この構造の中でも特に強い影響力を持つ。
なぜなら、評価と報酬は
人の行動を直接変える力を持つからである。
◇制度だけを変えても意味はない
ただし、人事制度にはもう一つ重要な特徴がある。
それは
制度だけを変えても、組織は変わらない
ということである。
例えば、評価制度だけを変えても
- 管理職の役割
- 意思決定の仕組み
- 情報の流れ
が変わらなければ、現場の行動はほとんど変わらない。
つまり制度は
組織全体の構造の中で設計される必要がある
のである。
◇人事制度の前に考えること
企業が人事制度の見直しを考えるとき、
最初に問われるべきことは次の問いである。
それは
この会社は、どのような組織を目指しているのか
という問いである。
- 挑戦する組織なのか
- 安定した組織なのか
- チームワークを重視するのか
- 個人成果を重視するのか
この思想が整理されていないまま制度を設計すると、必ず矛盾が生まれる。
◇制度を見ると会社がわかる
もし、あなたの会社の組織問題を考えるなら、
まず人事制度を見てみてほしい。
そこには
- 会社が本当に評価しているもの
- 行動のルール
- 組織の価値観
がすべて表れている。
人事制度は単なる仕組みではない。
それは
会社の思想そのもの
なのである。
(このテーマについて考えてみたい方は、
当サイトの AI思考実験 を試してみてほしい。)
IBEXの考え方:
人事制度は
管理ツールではなく
経営のメッセージである。
アイベックス・ネットワーク 代表 新井 健一