※当コラムは、企業人事に従事される方にはおなじみの「月刊 人事マネジメント」に寄稿させていただいた原稿を一部加工修正したものです。
今回は、この7月末に出版させていただいた『事業部長になるための経営の基礎Ⅱ─コンプライアンス・リスクマネジメント編』(生産性出版)の共同執筆者、角渕渉氏とコンプライアンス・リスクマネジメントのラーニング最前線につき、同書中のコラムを編集し、まとめている。
先ずは、どの職場にも必ず潜むコンプライアンスリスクについての対談をご紹介したい。
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角渕「企業経営は、利益と損失は企業経営の両輪です。ですが、企業の上役であればあるほど、利益の話には飛びつきたくなりますが、リスクは無いことにしたくなる話です。リスクは現在火のついている話ではなくて、将来火のつく可能性のある話であり、そうであるが故に、特に余裕がないときには見て見ぬふりをしたくなりますよね。
ですが、見たくなくても“在る”ものはあります。したがって『見たくないものは見ない、見ないものは見えない、見えないリスクは存在しない。存在しないリスクに対策は不要である』という短絡的な発想になっていないか、常に自問自答し、対処する必要があります」
新井「そして、対処の前提として、先ずはリスクを発見する必要がありますよね。ですが、リスクはやみくもに発見しようとしても、発見できるものではありません。そこには着眼点というものがあり、この着眼点にそって丁寧に職場を点検すれば、自ずと見たくないリスクが発見できるはずです。
そう考えると、普段から我々のような専門家が扱うチェックリストのようなツールで職場を点検することにも、大きな意味がありますね」
角渕「はい。企業向け研修などでこのようなツールを用いると『ああ、やっぱりな』というお声を聞いたり、お顔色をみたりすることがよくあります」
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次に、コンプライアンスリスクに対処するための意識と知識、スキル、そして行動力を養う教育体系についての対談をご紹介する。
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角渕「現場の教育体系をみるに、まだまだ法令学習やマニュアルの配布に終始している企業も散見されますが、そういう会社様からも、最近はコンプライアンス教育体系の構築について相談を受けるようになりました」
新井「その一方で、ハラスメントは人事部の所管、コンプライアンスはコンプライアンス部門の所管と分けて考えて対処する風潮もありますし、結果のみを重視するノルマがきつい事業部門の風潮とハラスメントは別物であると考える組織もあります」
角渕「ほかにも、コンプライアンス教育は管理職のみを対象とし、部下への教育は管理職にお任せというような取り組みでお茶を濁している企業もありますね。こういう企業に限って上(役員)はどうなってるんですか、と訴える管理職の声をよく耳にします」
新井「これらを鑑みるに、これは人事部門、これはコンプライアンス部門と分けてしまうと、広く経営資源の配分という意味では大きなロスであり、本来であれば全方位的に一貫した対応が求められるところでしょうね」
角渕「そうですね。たとえばハラスメントを教育だけで解決しようとする企業もありますが、社内の懲戒の仕組みや内部通報の使いやすさを改善するなど、それこそトータルな視点から対処する必要があるでしょう。要は全般的なマネジメントなんですよ」
新井「昨今、企業の人事とコンプライアンス部門の教育担当者が“一緒”に階層別昇格者研修のご相談をくださる事例が増えてきたのは、企業経営の進化ですね」
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企業不祥事が後を絶たない昨今、想像してみて欲しい。企業のトップによる記者会見、株主代表訴訟による巨額の賠償請求。その火種が職場にあり、それを看過することの危うさをいま一度内省し、対策を講じる必要はどの企業、組織にもあるのではないだろうか。