※当コラムは、企業人事に従事される方にはおなじみの「月刊 人事マネジメント」に寄稿させていただいた原稿を一部加工修正したものです。
研修テーマ:次世代リーダー教育の必要性
VUCA時代の人的資本経営とリスキリング
VUCA(現在の社会経済環境が、きわめて「予測不能な状態」に直面しているという時代認識を表す造語)とはもともと軍事用語だが、ビジネス用語としても使われるようになり、すでに定着した感がある。そして、このVUCAに適応すべく、会社員のリスキリングも盛んに言われるようになった。
VUCA:予測不能な状態
V:Volatility(変動性)
U:Uncertainty(不確実性)
C:Complexity(複雑性)
A:Ambiguity(曖昧性)
リスキリングとは、時代の文脈に則して言えば「市場の変化に対応すべく新しい職種・業務に就くこと」や「現職で求められるスキルの変化に適応し、持続的に価値を創出すること」を目的に、新しいスキルや技術の習得を推進する全般的な取組みを指す。特に現在、第四次産業革命(IoTやAI、ビッグデータによる技術革新)への対応が強く求められる一方、デジタル技術をビジネスに活用するハイスキル人材の不足が、国家レベルで問題視されている状況である。したがって、リスキリングによるIoT、AI、データサイエンスなどのスキル開発は、官民で注目を集めているのだ。
そして同じく、近年ますます注目を集める人的資本経営とは、「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営」(経済産業省、2020)を指す。まさしく「資本」とは投資の対象であり、人材という「資本」に選択と集中を大前提とした適切な投資することで、リターンを最大化しようとする経営に他ならない。
人的資本としての次世代リーダー
そして、この重点投資対象となるのは、このVUCAにおいても力強く経営の采配を振ることが期待される次世代リーダー人材であろう。では当該人材の、どのような学びに投資するべきか。たとえば決算書や契約書の不備をチェックする(粉飾決算を指摘することも含む)のにAIの力を借りるこの時代にだ。
基礎学習と守破離
たとえば、国家レベルで人材不足が問題視されているデジタル技術ひとつをとっても、引き続きその「開発」に従事するのは、どの分野においても一握りの人材である。そして、大部分を占めるのは開発された技術を「運用」する人材(ユーザー、実務者)なのだ。そして、とことん優れた実務者になるための出発点は、基礎学習にあると筆者は考えている。通常、基礎の習得は、守破離の段階に則った成長や成熟を通じて、いずれ再現性のある応用に転じるからだ。
次世代リーダー人材にとっての基礎学習とは
では、我々ビジネスパーソンにとっての、更には次世代リーダー人材にとっての基礎学習とは何か。
ここで、たとえば経営大学院や、日本国内における中小企業診断士資格は、人材に対して社会人としてのキャリアアップや転職、副業、兼業もしくは独立起業を支援するための能力開発サービスを提供している。そう考えるとビジネスパーソン一般の基礎学習と言えなくはないが、ただその時に学んで終り、後は(少なくとも実務では)使わないという内容も一定程度あると聞く。また、筆者はこれまで企業の人事担当者からこんな相談も受けてきた。
「MBAの科目を単科ではなく、合わせ技で教えてくれませんか。うちの社員にもMBAをとった社員が相応数いるのですが、それぞれ学んだ単科の知識がつながってないみたいなんですよね」
このような要請を受けて、筆者は仲間とともに「単科を横断する思考をもって、経営課題を解決する次世代リーダー教育プログラム」を開発してきた。そして、開発過程における思考錯誤と成果をまとめたのが「事業部長になるための『経営の基礎』」(生産性出版)である。お陰さまで、本書の特長を次のように評価してくださった読者もいらした。
「ビジネススクールの授業も経営書も専門的に細分化され過ぎるなか“横串(よこぐし)”を通した本書は『実務家にとっての経営のバイブル』 (楠瀬啓介 スタンフォードMBA)」
但し、これはあくまでひとつの試みに過ぎない。企業は次世代人材が学ぶべき「基礎」を今あらためて洞察し、再構築する必要があるだろう。