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コンプライアンスとハラスメントの関係性

※当コラムは、「弁護士JPニュース」に寄稿させていただいた原稿を一部加工修正したものです。

◇「コンプライアンス」と「ハラスメント」

「コンプライアンス」「ハラスメント」、この言葉が世の中に認知されて久しいが、企業活動において、この2つが実は密接に関連していることを意識することは少ないのではないのだろうか。

まずは、コンプライアンスに関しての問題のあった事例を3点挙げよう。

①性能試験の不正行為:

機器メーカーにとって製造機器の性能試験は非常に重要であり、また消費者にとって性能はその機器を評価するための決定的な要因となるものである。

かかる中、当社は競合他社との競争において、その優位性を主張するため、性能データを操作。具体的には試験機器に特殊な設定を行い、また試験条件も操作し、これにより試験機器は実際よりも高い性能を示した。

結果、当社は競合他社よりも性能がすぐれているかのように見え、消費者にとって誤った選択を促した。

②安全性の隠蔽

あらゆるメーカーは機器の安全性を保証し、消費者の信頼を築くために安全面における非常に厳格な基準に従う必要がある。

しかし、当社は安全性の問題を隠蔽し、報告も怠った。

具体的には当社の一部の機器は設計や製造上の欠陥を抱えており、これにより重大な事故や故障が発生したが、当社はこれらの問題を報告せず、対策を講じるかわりに問題を隠蔽。

この結果安全性が担保されないまま市場に出回り、これが更なる事故の拡大やリコールを引き起こした。

③不正な契約

すべての企業は契約やビジネス取引において倫理的面を考慮し、透明性を確保しなければならない。

しかし、当社は契約や提携取引において、不正な手続きを行い、特定企業や個人に不当に優遇。

これは当社に不当な利益をもたらすとともに、他の競合企業や正当なビジネスパートナーに不公平な競争をもたらした。

前述の事例は一見、社員のコンプライアンスの理解や周知が不足しているように認識されることが多い。

がしかし、実態を深く探っていくと、パワハラ等のハラスメントが問題の根底にあることが少なからず存在する。

それはどういうことか。

その理由に入る前に、あらためて「コンプライアンス」「ハラスメント」とは何かについて触れておこう。

「コンプライアンス」とは、法律、規制、業界標準、内部規制、倫理規定等の遵守を意味する。

コンプライアンスの目的は、企業や組織が法的なリスクを最小限に抑え、倫理的な標準を維持し、業務プロセスや活動を透明かつ適法に遂行することといえる。

また、「ハラスメント」とは、一般的に、相手のおかれている状況や環境に対する無知や無理解などから生じる、いじめや嫌がらせ、と表現されている。

ハラスメントの代表例である、パワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、

または職場環境を悪化させるもの、とされる。

◇コンプライアンス違反の事例、その背景から見えてくるもの

上述にてコンプライアンスの違反事例、及び「コンプライアンス」「ハラスメント」の2つの定義に触れたが、ここまでみても、この2つが直接、関係しているようには見えない。

事例のとおり、コンプライアンス違反の事例はあくまで、法的に〇〇に違反した、という事例に受け止められるのである。

しかし、「コンプライアンス」「ハラスメント」は実は密接に関係していることがある。

それは、コンプライアンス違反の事例を、なぜそのような違反に至ったのか、より深く、社員の心理面や、職場の状況、企業風土まで探っていくと、そこには、業績面での過度なプレッシャーや、無理なコスト削減などパワハラをはじめとするハラスメントが背景にあることが見えてくることがあるのである。

つまり業績面での過度なプレッシャー、パワーハラスメントにより、やむなく、不正事象を行ってしまうということである。

◇コンプライアンスとハラスメントはなぜ別々の事象として扱われるのか

そして、さらに言えば、この2つが一見関係のないものに見えることが、問題の解決をも難しくしていると筆者は捉えている。

なぜならば、企業によっては、ハラスメントは総務系の部署の所管、コンプライアンスは法務系部署の所管であることもあり、ハラスメントは総務系の部署が社員に周知、コンプライアンスは法務系の部署が社内周知し、「コンプライアンス」と「ハラスメント」が別々の事象として扱われることも多いのである。

筆者は、企業研修で講師を務めることも多いが、その中では企業の研修担当者とすり合わせたうえで、コンプライアンス研修のプログラムにハラスメントの事例を盛り込むことがある。

または逆もしかりである。そうすることにより、ハラスメントが企業活動にどう影響するのか、コンプライアンスにどう関係するのか、を従業員に総合的に理解してもらうことに努めている。

企業活動の実態に即したコンプライアンスの意識を高めるには、一つの事象を複合的にみることが重要であり、この結果として、よりよい企業経営に繋ながることが望ましい姿と言えるだろう。

 

アイベツクス・ネットワーク パートナーコンサルタント 二野瀬 修司