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あなたはP/Lから求める人材を想像できるか 1/2

※当コラムは、企業人事に従事される方にはおなじみの「月刊 人事マネジメント」に寄稿させていただいた原稿を一部加工修正したものです。

◇決算書は自社の経営戦略を写し取ったもの

今回は、経営数字や事業の全体像や求める人材像を捉える手掛かりを探っていきたい。
まず、「企業は各社各様の経営戦略を採用し、その結果として利益を得ている」ということに異論を唱える者はいないだろう。
そもそも「戦略」とは軍事用語であり、その全容は決して外部に公表しないものだ。
ただし、経営戦略は軍事戦略とは異なり、その全容が決算書によって明らかにされてしまう。
決算書とは貸借対照表(Balance Sheet:以降BS)や損益計算書(Profi t and Loss statement:以降P/L)、そしてキャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement)などから構成され、経営戦略に基づく企業活動とその成果を数字により写し取ったものである。

そのため、同じ業界に属する企業であっても決算書の内実が異なることも多い。
言い換えれば、同業で同じような内容の決算書であれば、両社は血で血を洗う競争を繰り広げ、互いの利益をすり減らしていると読み取れる。
一方、同業でも全く異なる内容の決算書であれば、どちらか(もしくは両社ともに)競争を回避する独り勝ちの経営戦略を採用している可能性が高いといえる。
なお、人事戦略は経営戦略に含まれる項目なので(表1)、経営戦略が異なれば当然に人事戦略(人材配置・人材開発)も異なる。

(表1)
なぜ戦うか、大義名分を決める →  経営理念の策定
戦の相手を決め、情報を集める →  競争相手の決定
戦で主に使用する兵器を決める →  重点製品の決定
主要な戦場とその範囲を決める →  重点地域の決定
戦の陣形と各役割分担を決める →  人材配置の決定
各人の教育と訓練方法を決める →  人材開発の決定
武器、食料の補給方法を決める →  製品生産の決定


◇経営戦略を映し出す「収益」-「費用」=利益

では人事担当者として、P/Lから何が読み取れるのか、読み取らなくてはならないのか。
まずは簡単な式で表してみよう。

収益ー費用=利益

上記の損益等式には企業活動とその成果が表現されており、例外はない。
しかし、その内実までは見えづらいので、もう少し分解して考えてみる。

収益=(自社で販売する商品やサービスの)「販売単価」×「数量」、そして「品数」

収益には、自社の経営戦略をマーケティングやセールス活動に展開したその成果がすべて表現されるのだ。
次に「費用」を分解する。

費用=「固定費」+「変動費」

「固定費」とは、会社の操業(売上高)の度合いに関わらず一定額発生する費用のことである。
具体的には、社屋や小売店舗の賃借料、正社員の給料,借入金の利息など。
これに対して「変動費」とは、操業(売上高)の度合いに比例して増減する費用のことである。
販売業であれば仕入にかかる代金、パートタイマーやアルバイトの給料など、店舗の稼働や繁忙などに応じてかかる費用のことを指す。

このように「費用」を構成する「固定費」と「変動費」の在り様には、自社の経営戦略に基づく経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)の配分を通じた会社の儲けの仕組みが表現されている。
つまり、収益と費用を構成する要素とその配分には、その会社の採用する経営戦略が如実に映し出されており、そこには当然、人事戦略も含まれるのだ。

例えば、人的資本経営において、自社の人件費構造をいかに改革し、時代や環境に合わせて適正に管理するかという課題と「固定費」および「変動費」の議論は切り離せない。

今、企業を取り巻く時代や環境は、人事担当者にこれまで以上に困難な課題を突き付けている。
グローバルな企業間競争の激化、少子高齢化、退職年齢の延長、女性の活用、出生率の引き上げ、そして欧米諸国に比べて低いとされる生産性の向上、一方で生産革新を実現するAIやDXへの取組み……等々だ。

そんなふうに課題が山積するなか、人事は人的資本家営、ダイバーシティ&インクルージョンを所管し、推進する部門として、個別の雇用条件や事情に配慮しながら、高度な成長を前提としない経営環境における人材マネジメントが求められるのである。

アイベックス・ネットワーク 代表 新井 健一