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“分かっているつもり”から“自分ごと”へ

※当コラムは、企業人事に従事される方にはおなじみの「月刊 人事マネジメント」に寄稿させていただいた原稿を一部加工修正したものです。

 

◇コンプライアンスの基本くらい、もうわかっていの危うさ

「うちの社員はコンプライアンスの基本くらい、もうわかっている」。

そう話す企業のご担当者も少なくありません。

しかし本当にそうでしょうか。

たとえば、「セクハラとは何か?」という問いに対し、自分の言葉で語れる社員はどれほどいるでしょうか。

ルールを“知っている”ことと、“自分ごと”として考えることには、大きな隔たりがあります。

こうした「わかっているつもり」が、現場での油断や誤解を生み、結果としてリスクを高める要因にもなり得るのです。

近年、研修の場で「ハラスメントは、加害者ではなく、受け手がどう感じるかが重要です」とお伝えしても、「そんなつもりはなかった」という反応が少なくありません。

こうした背景には、自分は問題の当事者になり得ないという思い込みや、単なる知識の習得にとどまった理解があります。

◇これは常識だろうの思い込み

また、管理職や中堅社員ほど、「これは常識だろう」という前提で行動してしまう傾向もあります。

だからこそ今、知識の伝達だけでなく、感情や価値観に触れられるような、対話を中心とした研修への見直しが必要とされているように感じます。

我々が以前、研修をおこなったある企業では、3カ年計画で管理職・一般社員の両方を対象としたハラスメント研修に取り組みました。

この研修は、知識の詰め込みではなく、対話を通じた気づきを深める設計に重きを置いていた点が特徴的でした。

たとえば、「ハラスメントはなぜ起こるのか?」という問いに対し、まず個人でじっくり考えた上で、他者の視点と照らし合わせながら意見を交わすように構成しました。

ここで重視したのは、単なる意見交換ではなく、「自分とは異なる感じ方」や「無自覚な思い込み」に気づくプロセスを組み込むことです。

あわせて、明確な正解がないグレーゾーンの事例も積極的に取り上げ、対話を通じた理解を深めることにも重点を置きました。

受講者の中には、「自分の常識が通じない場面があることに気づいた」と語る方もおり、自分ごととして振り返るきっかけを得たという声が多数寄せられました。

◇コンプライアンス研修は”こなすもの”か?

会社にとってコンプライアンス研修は、法令対応として“こなすもの”と捉えられがちです。

ですが、ルールや制度の理解だけでは、社員の意識や行動に持続的な変化を生み出すのは難しい場面もあるように感じます。

研修の中に「考える」「話す」「他者の視点に触れる」時間があることで、受講者の表情や声が変わっていく場面を私たちは何度も見てきました。

単なる知識の伝達だけでなく、共感や違和感といった“感情の揺れ”を引き出すことが、学びを深めるきっかけになるように感じています。

こうした体験の積み重ねが、組織全体のコンプライアンス意識を少しずつ高めていくのではないでしょうか。

ルールを「守らせる」のではなく、社員一人ひとりが「どうありたいか」を考える機会をつくる。

そこから生まれる気づきや対話の積み重ねが、日々の小さな選択を変え、職場における信頼や行動の変化へとつながっていきます。

それが、コンプライアンス研修を通じて得られる、本質的な成果の一つだと私たちは感じています。

 

アイベックス・ネットワーク パートナーコンサルタント 安田 真紀子