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「べからず」だらけのパワハラ防止教育は卒業しよう

※当コラムは、企業人事に従事される方にはおなじみの「月刊 人事マネジメント」に寄稿させていただいた原稿を一部加工修正したものです。

 

◇パワハラ防止教育の現状

パワハラ防止研修が盛んである。皆さんの会社ではどのような研修が行われているだろうか。

代表的なパワハラ防止教育のコンテンツとして以下のようなものがあげられる。

① パワハラの定義と代表的なパワハラ行為

② パワハラ防止法の重要規定と代表的な判例

③ パワハラ防止に向けたべからず集

社内教育では、①と②はパワハラ問題を正しく理解させるために避けて通れず、③もパワハラ防止のためにはなくてはならない実践知である。

 

◇受講者の2つの反応

しかしこれだけでは、「では、どのように指導すればよいのか?」という疑問に答えられていないため、二つの困った反応が表れる。

一つは反発で、「部下の成長を願った厳しい指導の何がいけないんだ?」という開き直りで、まさに逆効果である。

もう一つは過剰反応で、パワハラを恐れて部下と距離を置くというものである。

それで加害行為は防げるのだが、部下が成長しなくなる。またこのような職場では上司の監督が不十分になり、部下同士のパワハラ問題が増えることも懸念される。

こんな残念な結果にならないパワハラ防止教育とはどのようなものなのか。

答えは甚だ平凡である。

いまいちどパワハラ問題を「部下指導の失敗」として捉え直すことである。時代にそぐわない指導がパワハラ問題を引き起こすという認識に立ち戻ることである。

 

◇具体的な事例

そこで改めて着目したいのが、部下指導のスキル、それも現代の職場事情に即した実践スキルの教育である。

例えば、上司が込み入った指示をしているにもかかわらず、メモを取ろうとしない部下がいたとする。これに対する指導はいくつも考えられる。

メモの重要性を説く、メモなしで軽微な失敗をさせて本人に気づかせる、といったことが思い浮かぶが、それでも改善が見られない場合にどうするか、といったテーマについて考えてみると面白いかもしれない。

もちろん、パワハラ的な指導は厳禁である。

研修講師として筆者が遭遇した興味深かった事例として、「仕事は任せる側と任される側のチームワークである」という視点を挙げた方がいた。

確かにその部下は記憶力に自信があるのだろうが、それを客観的に証明することはできない。

そのため任せた上司は当該業務が完了するまで、ずっと不安を抱えていることになる。

「他のチームメンバーに不安を与えるような仕事って、果たして良い仕事なのだろうか?」といった問いかけを行うというのである。

部下の視点を移動させ、上司の立場で行動を振り返らせることで、とるべき行動に気づかせるのである。

 

◇重要な上司の自信回復

これは一例に過ぎない。他にも上司部下の対話記録を用いたケーススタディ方式や、ロールプレイといった様々な手法がある。

いずれにせよ、上司がいまの時代に合った部下指導とはどのようなものかを理解し、それを実践できればパワハラまがいの指導も減るだろうし、上司が自分の成長を支援してくれていると理解できれば、部下も上司に対して信頼感を抱くようになる。

信頼関係が生まれれば、パワハラ問題も起きにくくなるものである。

話をまとめると、最初に取り上げた①、②及び③の教育は前提として、それに加えて現代的な部下指導のスキル習得を目指すことである。

上司が「できる」と自信を持てれば、おのずと部下指導も改善するだろう。

逆に「どうすればよいかわからない」という状況で、法律や判例で脅され、べからず集で手足を縛られては、上司も反発したくなるだろう。

肝心なのは「上司に自信を取り戻させる」ということなのである。

 

アイベックス・ネットワーク パートナー講師 角渕 渉