※当コラムは、企業人事に従事される方にはおなじみの「月刊 人事マネジメント」に寄稿させていただいた原稿を一部加工修正したものです。
子会社にこそ必要な取締役教育
最近、取締役向けのコンプライアンス研修の依頼が増えてきた。
それも企業集団を統括する親会社からの依頼で、子会社取締役を対象とした研修の相談が多くなっているのである。
その背景には子会社が震源となってグループ全体を揺るがす不祥事につながる事例が増えていることが考えられる。子会社取締役取締役教育の強化は待ったなしの経営課題なのである。
軽視できないマネジメントの基礎教育
子会社取締役を対象とするコンプライアンス教育のテーマは多岐にわたる。
まずはリスクの顕在化による損失を防ぐための予防型リスクマネジメントで、これがコンプライアンス経営の基盤となる。
コンプライアンス経営とは通常のマネジメントシステムを土台として成立するため、併せてマネジメントシステムの基盤強化にも取り組まなければならない。
ところが小規模子会社の取締役の多くはプロパー社員から昇格するため、十分なマネジメント教育を受けていないという例も珍しくない。
それを補うために大企業なら課長時代に学ぶマネジメントの基本スキルから説き始め、そのうえでコンプライアンス経営を説く必要も生じるのである。
危機から目を背ける悪い癖
ところで子会社取締役コンプライアンス研修で最近顕著になってきた傾向がある。研修では架空の不祥事事例を題材に次のことを討議する。
①問題原因の分析
②事件発生時に取締役としてとるべき行動
③再発防止策など
この演習で①と③の検討には非常に熱心なのだが、なぜか②の検討には熱が入らない受講者が多いのである。というより意識的にその話題に触れるのを避けているかのような印象を受ける。
これはどうしたことであろうか。
その原因の一つが、「危機に直面したときは、親会社が何とかしてくれる。自分たちはその指示に従えばよいのだ。」という意識である。
まるで中間管理職の発想であり、これでは親会社も不安であろう。
そこで必要になるのが危機管理教育であるが、危機管理という領域は集合研修のテーマとしては意外に扱いにくいものである。
「いざというとき、どのように考え、どのように行動すべきか」という点を学んでほしいのであるが、これがうまくいかないのである。
上にあげたような事情もあるが、たとえ器用に結論をまとめ上げることができたとしても、非常時に同じことができるという保証はないのである。
取締役に必要なコンプライアンス教育
もとより取締役は多忙である。
ここで取り上げた全ての課題に応える研修を会社が用意し、時間をかけて受講してもらう余裕などない。
最終的には取締役自身が自己研鑽に意欲的に取り組むしかない。
そこで集合研修を補う学習法として、考え方を網羅した基本文献を精読し、自分事としての深い思索の機会を持つことが考えられる。
世の中には予防型のリスクマネジメントについてまとめられた高度な研究書は多いし、危機管理についても広報の実務家による良書が多く出版されている。
しかし、取締役に求められるレベルで両者を統合的に学べる書籍は多くない。
そのような要請にお応えすべく、我々は「事業部長になるための経営の基礎II: コンプライアンス経営から危機管理、不正・不祥事への対処までがわかる本」(生産性出版)を書籍化した。
予防型のリスクマネジメントと不測事態に備える危機管理を統合したものである。
しかも不特定多数に向けたものではなく「事業部長になるための」という縛りを設けている。まさに取締役としてグループ内の事業部門たる子会社を預かる人材にこそ学んでほしい一冊である。
アイベックス・ネットワーク
パートナーコンサルタント 角渕 渉